気になった曲やトピック、「今週の1枚」などをフリーに紹介するウィークリー・レポート。(ほぼ)毎週(ほぼ)日曜日に更新予定。今週は Desire Marea、Lana Del Rey、Men I Trust、Naima Bock、Fenne Lilyの新曲、MF Tomlinsonのニュー・アルバムについて書きました。

Desire Marea – Be Free

南アフリカのアーティスト、デザイア・マレアのニュー・アルバムからの先行曲。エレクトロニック主体だったデビュー・アルバムに対して、今作は13人のミュージシャンとライブレコーディングされ、多くの楽曲はファースト・テイクが採用されているとのことで、今回公開されたこの”Be Free”もバンドサウンドならではのダイナミズムが感じられる躍動感のある一曲。ロックともR&Bともジャズともつかないミクスチャー感覚とアフリカ的なスピリチュアリティーを感じさせるサウンドは、欧米からは決して生まれ得ないような感覚があってすごくおもしろい。予測不能な2ndアルバム On the Romance of Being は4/7にMuteからリリース予定。

Lana Del Rey – A&W

3/24にリリース予定のラナ・デル・レイのニュー・アルバム Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd から新たに公開された2曲目の先行曲。ピアノとアコースティックギターと微かな電子音を中心とした浮遊感のある前半からビートが入ってきてエキセントリックに展開していく後半にかけて、終始気怠げな雰囲気のあるフォーキーなトラップみたいな感じで、めちゃくちゃ良い。コラージュ・ポップ感覚は何となくJoakstrapを思わせるところもある。ピッチフォークのBNMも納得。俄然アルバムが楽しみになる一曲でした。

Men I Trust – Ring of Past

4月に来日も決まっているメン・アイ・トラストの新曲。軽快なドラムにファンキーなベースライン、印象的なシンセのリフとキュートなボーカル。汗をかかないファンキー・ミュージック。究極の心地よさを感じさせる歪ませない系ドリームポップの一つの完成形だなと思います。2021年のアルバム Untourable Album 以降これで既に4曲目のシングルということでそろそろニュー・アルバムが来そうな気がしないでもないですが、どうでしょう。

Naima Bock – Lines

去年のデビュー・アルバムも素晴らしかったロンドンのシンガーソングライター、ナイマ・ボックの新曲。バンドサウンドに管楽器とストリングスが絡み合うデビュー・アルバムの延長にあるような一曲で、エレクトリックギターも含めさまざまな楽器が織り重なりながらもお互いを邪魔することなく有機的に絡み合う、親密でありながら壮大さも感じさせるサウンドスケープに圧倒されます。3月と4月には下でも取り上げたフェン・リリーのサポートアクトでヨーロッパを回るようです。

Fenne Lily – Dawncolored Horse

UK/ブリストルのシンガーソングライター、フェン・リリーの4月リリース予定のニュー・アルバムから2曲目の先行曲。曇り空が似合いそうな憂いのある歌声はちょっとアルダス・ハーディングを思い出すし、しみじみと「いい曲だな」と思える情感たっぷりなメロディーはニュー・アルバムにも参加しているらしいケイティー・カービーを思い出したりもする。つまり、そのあたりのシンガーソングライターが好きな人の琴線に触れる最高なアルバムがリリースされそうな気配が強烈に伝わってくる。先に公開されてた “Lights Light Up”に引き続き期待が掻き立てられます。

MF Tomlinson – We Are Still Wild Horses

MF Tomlinson – We Are Still Wild Horses (PRAH)

今週の1枚。

今週は他にもRunnnerやAnna B Savageなど私的ベストニューミュージックがリリースされた週ではありましたが、中でも目下ヘビーローテーションしているのがこちらのMF Tomlinsonのニュー・アルバム。MF Tomlinsonはオーストラリア/ブリスベン出身で現在はロンドンを拠点とするシンガーソングライター Michael Tomlinson とThe MF’s と呼ばれるコラボレーション・グループによるプロジェクトで、今作は2021年のデビュー・アルバム Strange Time に続く2ndアルバムです。おそらくあまり知名度は高くなく自分も今作で初聴だったのですが、クオリティーの高さにめちゃくちゃ驚きました。

フォークをベースにプログレッシヴ・ロック、ジャズ・ロック、チェンバー・ポップ、サイケデリックなどの様々な要素のある折衷的な音楽性を持つアルバムで、ギター、ベース、ドラム、シンセに加えて、トランペットやフルートといった管楽器やストリングスによるバックバンドの演奏の巧みさも際立っているのですが、あくまでも「歌」が中心に据えられており、楽器のみのセッションパートが多いにもかかわらず、演奏のための演奏にならず、各楽器が歌に彩りを添えるために機能し全体性を保っているところが肝になっているように感じます。

オープニング・トラックの”A Cloud”は、牧歌的で少し物悲しいメロディーを持つフォーク・ソングで、同じメロディー・テーマが4度繰り返される曲構成となっているのですが、その4度繰り返されるメロディー・テーマに対して4度異なったアレンジが施されており、それぞれのパートが異なる印象を与える不思議な曲に仕立て上げられています。どことなくピンク・フロイドのチェンバー・ポップ・バージョンにも聴こえる壮大なプログレッシヴ・トラッド・フォークの”Winter Time Blues”、女性ボーカルのコーラスワークも麗しいピアノ・バラード”End of the Road”、ピアノとベースによる抽象的なジャズのようなオープニングからエモーショナルなボーカルパートを経てサイケデリックなジャズ・ロック・セッションになだれ込む20分超えの長尺曲”We Are Still Wild Horses”へと続くアルバムは、「4曲41分」という構成となっていますが、あくまでもシンガーソングライターの作品として聴けるし、その長さも必然と感じられる珠玉の4曲であると思います。

インタビュー記事が見当たらずこのアルバムにどのようなバックグラウンドがあるのかを調べることができていないのですが、昨今のロンドンのシーンにおいて特異なタイプのバンドであると思いますし、隙間に埋もれてしまうには惜しい注目すべきアルバムです。

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