気になった曲やトピック、「今週の1枚」などをフリーに紹介するウィークリー・レポート。(ほぼ)毎週日曜日に更新予定。今週はJohn Andrews & the Yawns、7ebra、Gilla Band、Moreish Idols、Shy Martinの新曲、Yo La Tengoのニュー・アルバムについて。
John Andrews & the Yawns – Checks in the Mail
2020年の前作 Cookbook も素晴らしかった ジョン・アンドリューズ・アンド・ザ・ヨーンズの新曲。アコースティック楽器を空間的に響かせた録音や淡いメロディーが70’sSSWやソフトロック由来のデイドリーミー感を醸し出し、流麗なストリングスが上品にゴージャスに曲を飾り立てる。相変わらずのウットリするような甘美さがあり、シューゲイズ由来のドリームポップとはまた別の文脈でこれもまたドリームポップなのだと言いたくなる。ニュー・アルバム Love for the Underdog が4/28にWoodsistからリリース予定。楽しみですね。
7ebra – I Like to Pretend
スウェーデン/マルメのニューカマー、7ebra (「ゼブラ」と読むのでしょうか?)のデビュー・アルバムからのリードシングル。7ebraはギター/ボーカルを担当するイネスとオルガン/メロトロンを担当するエラの双子姉妹のプロジェクトで、アルバムはカーディガンズのトーレ・ヨハンソンがプロデュース。ミニマムな編成からもわかるようにひたすらシンプルななインディー・ポップといった趣の曲なのだが、温もかみのある音と微睡を誘うスロウな曲調の中に不気味さを感じられる雰囲気もあってとてもいい感じ。デビュー・アルバム Bird Hour は5/5にPNKSLMからリリース予定です。
Gilla Band – Sports Day
アイルランド/ダブリンのノイズロック/ポストパンク、ギラ・バンドの新曲。スポーツ・デイ。日本語帯で「運動会」と書いて7インチでリリースするにはちょっと不穏すぎる相変わらずのギラ・バンド節。ノイズをコントロールしてロックのフォーマットに落とし込み混沌と秩序の両極を感じさせるような堪らなくカッコいい一曲。これから6月にかけてアメリカ〜ヨーロッパをツアーで回るようですが、だいぶ機は熟してる感じもしますし、そろそろ日本に来てくれないでしょうか…?
Moreish Idols – Nocturnal Creatures
Speedy Wundergroundからロンドンの5人組、モレイッシュ・アイトルズの新曲。去年出たEP はまだロンドンのポストパンク・バントっぽい雰囲気、嫌な言い方をすると「あ〜こういう感じね」と思ってしまうような節があったのだが、今回出たこの新曲は一皮も二皮も剥けたような変貌を遂げていてメチャクチャ良い。ポストパンクというよりはUSオルタナのような雰囲気があり、耳馴染みの良いメロディーととエッヂの効いたギターサウンドが絶妙なバランス感覚で混ざり合っていてセンスの良さを感じる。瑞々しく枯れているような味わい深い一曲。
Shy Martin – late night thoughts
スウェーデンのソングライター、シャイ・マーティン のデビュー・アルバムからのタイトル・トラック。シャイ・マーティン名義では今回のアルバムがデビュー・アルバムになるのだが、彼女自身はソングライターとしてチェイン・スモーカーズやカイゴといったメジャー・アーティストに楽曲を提供する売れっ子ソングライターで、提供曲のSpotifyでの総再生回数は30億回を超えるのだそう。そんな彼女がシンガーソングライターとして自身の名義でリリースするデビュー・アルバムは自身のためにセラピー的に制作した作品とのことで、先行曲のこの曲もそうした背景が伝わってくるような親密さを感じさせる楽曲で、アナログな質感とハイファイなプロダクションが融合したハイクオリティーなポップ・ソング。アルバム late night thoughts は5/19にリリース予定。7曲17分となってるのでミニアルバムのような感じかもしれませんが、楽しみです。
Yo La Tengo – This Stupid World
今週の1枚。
今週は2023年最初のビッグ・ウェーブと言っていいほどリリースラッシュの金曜日で注目のアルバムが数多くリリースされてますが、ひとまず聴き込んでるのがヨ・ラ・テンゴのニュー・アルバム。文句なしで素晴らしい。
乾いたスネアの音と繰り返されるベースのフレーズの上で赴くままに暴れたり静まったりするディストーション・ギター、思い出したように入ってきたりいなくなったりするボーカルが微かな不穏さも感じさせるオープニング・トラック”Sinatra Drive Breakdown”からヨラの世界に一気に惹き込まれ、疾走感のある”Fallout”、ゆら帝の”3×3×3″を彷彿とさせる”Tonight’s Episode”、浮遊感のあるアコースティック・サウンドの”Aselestine”、’Until It Happens”、”Apology Letter”、潰れたボーカルをかき消さんばかりにノイジーなギターが疾走する”Brain Capers”、マイブラのソレともソニック・ユースのソレとも違う穏やかさが垣間見えるギターノイズの嵐を聴かせるタイトルトラック “This Stupid World”、ジョージアの滋味深いボーカルと空間的で浮遊感のあるサウンドで壮大を感じさせるクロージング、トラックの”Miles Away”まで、どこを切り取っても彼らの音楽だとわかるシグネチャーが散りばめられた円熟のアルバムで、49分という長さを感じさせない隙のなさが素晴らしく、何度もリピートしている。
結成して38年、マクニューが加入して現体制になって30年、アイラは今年で66才。キャリアや年齢を考えてもベテランの域に達しているのは間違いないけれど、古臭さや懐古的なところを一切感じさせない作品をコンスタントに作り続けていることは本当に感嘆すべきことだし、最近悲しいニュースが続いてるだけに、どうかこれからも健康で音楽を作り続けて欲しいなと心から思う。フジロックはできればグリーンステージでやってほしい。一番大きな空間でこの音を浴びたい。
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