The 25 Best Albums of 2021

25. Painted Shrines – Heaven and Holy (Woodsist)

Woodsの創設メンバーである Jeremy Earlと、Glenn Donaldson (Skygreen Leopards、The Reds, Pinks & Purples) によるデュオ、Painted Shrinesの1stアルバム。The PapercutsのJeff Mollerがベースで参加。ザ・バーズを彷彿とさせる牧歌的でほんのりサイケデリックなフォーキー・ポップ・アルバムで、哀愁を感じさせる裏声で歌われる泣きメロに温かな音色のファズギターがアクセントとなり、思わず胸を掻きむしられるような名曲ぞろいの一作。中でも枯れ果てた”Friday I’m in Love”な趣を感じさせる”Gone”が至高。

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24. UV-TV – Always Something (Papercup Music)

USの3人組インディー・パンク・バンド、UV-TV の3rdアルバム。フロリダからNYに拠点を移し、新たなドラマーを迎え入れて制作された本作は、フィメール・ヴォーカルのギターポップ・ファンの琴線を刺激しまくる要素が満載の一作。徹頭徹尾キャッチーなメロディーと軽快に疾走するジャングリーなインディー・パンク・サウンドは、さなかがら太陽の下で骨太に育ったVelonica Fallsのよう。まずはパパパパコーラスのキラー・チューン”Distant Lullaby”に問答無用でノックアウトされて欲しい。

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23. Glüme – The Internet (Italians Do It Better)

LAを拠点とするミュージシャン、Glümeの1stフルレングスAL。プロデュースは Italians Do It Betterの代表であり、Chromaticsを主宰するJohnny Jewel。Chromaticsを彷彿とさせるダークなイタロ・ディスコにコケティッシュな歌が乗るグラマラスな世界観はどこか箱庭的な隔世感があり、時空の違うディスコに迷い込んだかのようなDavid Lynch的な奇妙な感覚が癖になる。「プリンツメタル狭心症」という心臓病を持病として持つ彼女がマリリン・モンローやジンジャー・ロジャースに憧れ、自由の効かない体でダンスをするMVを見てしまうと、このアウトサイダー的な感性を持つ音楽を空虚だとかキッチュだと言うことは決してできない。

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22. The Body – I’ve Seen All I Need To See (Thrill Jockey)

Chip King (ギター、ボーカル)とLee Buford (ドラム、プログラミング)によるポートランドのエクスペリメンタル・メタル・デュオ、The Bodyの8thアルバム。ヘヴィーなドラミングと凶悪なまでに破壊的なディストーションギター、歪んだボイスサンプルが生み出す凄まじい音圧に打ちのめされつつ、耳をすましてみればそのノイズと不協和音が生み出すサウンドテクスチャーの豊穣な響きに耳を奪われる。比較的ゆったりしたテンポで音の圧によって起伏を作りながら進行していくスタイルはある意味でスロウコア的とも言えるし、メタルというジャンルに明るくない自分は2020年リリースのLowの傑作アルバム Double Negative と同じ地平の作品として聴いた。

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21. allie – Maybe Next Time (Other people)

ナッシュビルのシンガーソングライター、allieのデビュー・アルバム。アップリフティングなシューゲイズ・ポップからミドルテンポのバラード、アコースティック・ギターの弾き語りまで、Washed Out的なチルウェイヴをギターサウンドで表現したかのようなレイドバック感とスケールの大きさな風景を感じさせるソフトなシューゲイズ・サウンドが爽やかに切なく響く、今の時代には珍しくもある1時間越えのボリュームがありながらアルバムを通して聴かせる良曲揃い作品。自身のジェンダー・アイデンティティを認識し、長年連れ添ったパートナーとの別れを決断したことを契機として作曲に打ち込むようになって制作されたアルバムとのことだが、「この人は歌いたいことがあるんだな」と思わせるシンガーソングライター的な資質が根幹にあることを感じさせるエモーショナルな楽曲に心を鷲掴みにされた。来年にはSaddle Creekからシングルをリリース予定でそちらも期待。

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20. Katy Kirby – Cool Dry Place (Keeled Scales)

2021年にBuck Meek、Renée Reed、Lunar Vacationといった良質なインディー・フォーク / ロックを届けてくれたレーベル、Keeled Scales からリリースされたテキサス出身ナッシュヴィル拠点のシンガーソングライター、Katy Kirby のデビュー・アルバム。耳馴染みのよいメロディーとヴォーカルに細部まで配慮が行き届いた表現力豊かなバンド・アレンジが爽やかで心地よく、サボテンの生えた草むらで色の抜けたジーンズに白のタンクトップで居心地悪そうに佇むアートワークの写真のように、飾り気はなくとも丁寧に生活や心の機微を掬い上げる繊細さが感じられる、愛さずにはいられない完璧なインディー・フォーク・ロック。

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19. 박혜진 Park Hye Jin – Before I Die (Ninja Tune)

韓国出身でLAを拠点とするDJ/プロデューサー/ラッパー/シンガーのデビュー・アルバム。フィーチャリング・アーティストの参加はなく、プロデュース、レコーディング含め自身の手で制作された本作、ダンスミュージックとしての享楽性ももちろん感じられる作品ではあるけれど、それ以上に言葉の存在感が大きい。”Let’s Sing, Let’s Dance (歌おう、踊ろう)”、”I Need You (あなたが必要)”、”Can I Get Your Number (電話番号教えて)”、”Whatchu Doin Later (この後何してる?)”、”Sex with Me (私とセックスしよう)”といった単刀直入な曲タイトルのリフレインが特徴的なリリックは、シンプルな言葉であるが故にダイレクトに響く。艶っぽく憂いのあるトラックの上をぶっきらぼうなボーカルとラップで吐露される言葉は、ダンスミュージックであると同時に自身の内面の葛藤や覚悟を表現する一人のシンガーソングライターの作品であることを強く感じさせる。

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18. For Those I Love – For Those I Love (September Recordings)

ダブリンのプロデューサー/シンガーソングライターの David Balfeによるソロプロジェクト、For Those I Love のデビュー・アルバム。Davidの親友でありバンドメイトであったポール・カランの死を契機としてレコーディングされた76曲に及ぶ楽曲の中から最終的に9トラックに絞られアルバムとして完成されたという本作、テーマは「悲しみとカタルシス」。高揚感のあるエレクトロニックのトラックとスポークン・ワードの応酬によって有無を言わせぬ迫力で表現されるそれぞれの楽曲は、アルバムに込められた想いや背景をリスナーにダイレクトに伝える強度がある。喪失の痛みと愛が結晶化した切実なレクイエムが胸を打たずにはいられない本当に美しい作品。

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17. John Andrews & The Yawns – Cookbook (Woodsist)

QuiltやWoodsのメンバーでもあるニューハンプシャー州を拠点とするミュージシャン、John Andrews による架空のバンド、John Andrews & the Yawns の3rdアルバム。70’sのSSWモノを思わせるノスタルジックなメロディーを持つ楽曲が、60’s後半から70’s前半のソフトロックを思わせるほんのりとサイケで優雅なアレンジで味付けされ、さらにリバーブの掛かった甘いボーカルがドリーミーな質感を一段と引き上げる。思わずこのアルバムが録音された場所へと思いを馳せてしまうような温かさを感じさせる、親しみやすくも夢のような聴き心地にトバされる極上のノスタルジック・ドリーミー。

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16. Taraka – Welcome to Paradise Lost (Rage Peace)

2010年にテキサスのバーでAnimal CollectiveのAvey Tareに発見されてデビューしたアンダーグラウンド・デュオ Prince RamaのフロントウーマンだったTarakaが、バンド解散後にテキサスの独房でヘビと暮らしながら構想し完成させたというソロ・デビュー・アルバム。アルバムのステイトメントには「廃墟のようなエデンの園でマパチョを吸いながら、小さな田舎町で10代の頃に夢中になったオールドスクールパンク、グランジ、無名のサイケレコードを聴き、スケートボードを習い、初めてパワーコードを発見した」とあるが、一度音楽を辞めた人間が手にした「二度目の初期衝動」という矛盾した表現がこれほど似合うアルバムがあるだろうか。テキサスという土地によって培養された危ういエネルギーが爆発したダーティーでサイケデリックなガレージ・ポップ・パンク。Ariel Pink’s Haunted Graffitiのメンバーも参加。

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15. Snail Mail – Valentine (Matador)

多くの人が待ち望んでいたであろうボルチモア出身のシンガーソングライター、Snail Mailの2ndアルバム。10代でリリースした1stアルバム Lush から3年が経過して届けられた本作は、2ndアルバムとしてこれ以上ないほどの進化を感じさせる作品だった。端的に言ってリッチになった音に飲まれることなく、ソングライターとしてもボーカリストとしても表現力、深み、艶っぽさが増していて、聴けば聴くほどに味わい深く、環境の変化と個人の成長の相克が一つの作品として見事に昇華されたことが伝わってくる。サウンド面というよりは、曲作りの部分においてグランジ(というよりはカート・コバーン)の影響が血肉化されているように感じられて、”c. Et AI.” “Mia”といった弾き語りの曲ですらカートの影を感じさせるのはきっと気のせいではないはず。

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14. Alicia Walter – I am Alicia (Sooper)

シカゴ拠点のアート・ロック・バンド、OshwaのリーダだったAlicia Walterのソロ・デビュー・アルバム。Animal Colleltiveを彷彿とさせるコズミックなトラックにAliciaのパワフルなボーカルが乗るオープニング・トラックから度肝を抜かれる。ブロードウェイやラグタイム、ソウル、ディスコ、ニューウェーブといったブラックミュージック寄りのサウンドをおもちゃ箱をひっくり返したかのように目まぐるしく展開しながら上演されるミュージカルのようなアルバムで、それらを表現力豊かに歌いこなしていくシンガーとしてだけでも充分過ぎるほどの凄みがあるのに、作曲からアレンジ、様々な楽器の演奏までも自身で行っているのだから、何度聴いても「一体この人何者なんだ?」という驚きが消えない2021年最大の衝撃作。

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13. Charlotte Cornfield – Highs in the Minuses (Double Double Whammy)

カナダのシンガーソングライターCharlotte Cornfieldの4thアルバム。このアルバム、とにかく曲が滅茶苦茶良い。心の琴線を刺激するような胸を締め付けるメロディーが溢れていて、聴いているといろんな感情が喚起させられる。Alexandra Levy (Ada Lea)、ドラマーのLiam O’Neill (SUUNS)、Sam Gleasonといったカナダのミュージシャンがサポートし、録音はArcade Fire初期のドラマーとしての経歴を持つエンジニア・Howard Billermanによるもの。ギター、ベース、ドラム、鍵盤というシンプルな編成によるバンドアンサンブルも非常に親密で味わい深く、テイクやオーバーダブも最小限に抑えられたという録音の生々しさも曲の素晴らしさを一層際立てている。ひとりのシンガーソングライターの才能が信頼のおけるメンバーのサポートによって最大限に引き出された作品。

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12. Julien Baker – Little Oblivions (Matador)

テネシー州メンフィス出身のシンガーソングライター、Julien Bakerの3rdアルバム。1曲目の”Hardline”からどこか自らを開放したかのようなエモーショナルな歌に心が鷲掴みにされる。ほぼ全ての楽器を自ら演奏したという本作、弾き語り主体だったデビュー作で聴かせたあの繊細さを決して損なわず、ダイナミックな躍動感が与えられており、Julien Baker特有の内に沈み込んだ感情を絞り出して外の世界に晒すときの震えが感じ取れるような楽曲が揃った本当に感動的な作品。’Favor’には盟友Phoebe Bridgers、Lucy Dacusもコーラスで参加。

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11. Iceage – Seek Shelter (Mexican Summer)

コペンハーゲンのロック・バンド、Iceageの5thアルバム。プロデュースは Spacemen3の Sonicboom。3rdアルバムくらいから徐々にメロディックな要素が増してきた Iceageだが、今作では思い切りそっち方面に舵を振り切った結果、かつてないほどにキャッチーで射程の広いアルバムとなった。Primal Screamを想起させるマンチェビートな”Vendra”や聖歌隊のコーラスを取り入れた”Shelter Song”に”Love Kills Slowly”、もの哀しいギターとピアノが印象的なバカラック調の”Drinkin Rain”、Oasis (!) を想起させるほどにキャッチーな”Dear Saint Cecilia”など、全9曲すべてシングルカット可能な楽曲がそろった文句無しの最高傑作。

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10. Goat Girl – On All Fours (Rough Trade)

サウスロンドンの女性4人組バンド、Goat Girlの2ndアルバム。浮遊感のあるスペイシーなシンセやギターのアレンジ、様々なパターンを聴かせるリズム、コーラスワーク、曲の構成など、一曲一曲が本当によく練られていて、各曲に固有の聴きどころがあり、それでいてアルバムとしての統一感も損なわれていない仕上がりに聴けば聴く程に驚かされる。わかりやすくエッジの効いた音を出しているわけでもなく、一聴したときは地味な印象もあったが、何度か繰り返して聴いている内に耳にこびりついて離れなくなってしまった。2021年はSquid、Black Midi、BC,NR、Dry Cleaningといったロンドンのロック・バンドが素晴らしいアルバムを出した年ではあるけれど、その中でも結果的にはこのGoat Girlの作品を聴くことが多かった。ポストパンクという枠を軽々と飛び越えた熟練味と味わい深さを感じさせる作品。

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9. Cassandra Jenkins – An Overview on Phenomenal Nature (Ba Da Bing!)

NYのシンガーソングライター、Cassandra Jenkinsの2ndアルバム。Cassandra Jenkinsの歌声や各楽器の響きを生々しく伝えつつも空間的な広がりを感じさせるサウンド・プロダクションが素晴らしく、それらとフィールド・レコーディングの音声がオーバーラップするように重ねられることで、多層的な時間軸を感じさせる。SIlver JewsのDavid Bermanの自死という出来事によって生まれた悲しみが一つの契機となって制作された作品とのことだが、悲しみがベースにありつつも、その上で生きることを尊ぶような前向きさも感じることのできるムードを感じさせる作品で、聴いていて深く静かに感動させられる傑作アンビエント・フォーク。

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8. Shame – Drunk Tank Pink (Dead Oceans)

サウス・ロンドンの5人組ポストパンク・バンド、Shameの2ndアルバム。捻りの効いたアレンジと随所に散りばめられた強靭なフックに耳を奪われ、推進力の強いエネルギッシュな演奏に身体が火照り血が湧き踊る。一筋縄ではいかないアレンジをパンパンに詰め込んで蛇行しながら進行していく音楽でありながら、これぞ直球のロック・ミュージックだと思わせる勢いが最高。隆盛を極めるロンドンのポストパンク・シーンの中で一際輝く男臭さと清々しさとクールネスに満ち溢れた快作。ラストを飾る”Station Wagon”は、より混沌とした未来への予兆を示しているかのようで鳥肌が立つ。

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7. Robbie & Mona – EW (Spinny Nights)

UKブリストル拠点の Pet Shimmersのメンバーでもある William CarkeetとEleanor Grayによるカップル・デュオ、Robbie & Mona の1stフルレングス・アルバム。デヴィッド・リンチの『ブルー・ベルベット』やヴェラ・ヒティロヴァの『ひなぎく』、フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』といった映画が影響源として挙げられている本作は、グリッヂ・ノイズもチープなシンセサイザーも壊れたように鳴るトランペットも全てが甘く濃密な細切れの夢の世界に奉仕する。アートワークも含め確立された世界観の完璧さに惚れ惚れさせられる退廃的でエロティックなデカダン・ポップ。

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6. Trace Mountains – House of Confusion (Lame-O)

元LVL UPのDave Bentonによるプロジェクト、Trace Mountainsの3rdアルバム。前作 Lost in the Country のリリース後、コロナ禍で職を失ったDaveが毎朝早起きをして曲作りとフィンガー・ピッキングの練習に励み、Jim Hill、Greg Rutkin、Susannah Cutlerといった前作から続くの主要メンバーに、Bernard Casserly、J.R. Bohannon、David Grimaldi、Ryan Jewellといった新しいバンドメンバーと共に完成させたアルバム。アコースティック・ギターとペダル・スチールをフィーチャーしたカントリー・ミュージック・テイストの優しく穏やかな楽曲を基調としたアルバムで、Trace Mountainsのひとつ到達点と言えるあまりに穏やかな名曲’7 Angels’や、都会的なAORテイストの’America’、疾走感のあるギター・ロック’Eyes on the Road’など、真摯に「良い曲」を作りまくるDave Bentonのシンガーソングライターとしての力量とバンドメンバーのサポートが美しく結晶化した傑作。

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5. Ada Lea – one hand on the steering wheel the other sewing a garden (Saddle Creek)

カナダのシンガーソングライター、Alexandra Levyによるプロジェクト Ada Leaの2ndアルバム。Phoebe Bridgersの作品にも参加するドラマー/プロデューサーのMarshall Voreとの共同プロデュース作品。物語を紡ぐように放たれる語数の多いリリックの韻が耳に心地よく、アコースティックとエレクトロニックを融合させたソフトなバンドサウンドがAlexandraのボーカルを包み込んで構築していく世界観は絹のように滑らかな質感がある。都会的な生活のサウンドトラックのようでありながら、現実とはひとつ次元の異なるぼんやりと微睡んだ空気が全体を覆う気品のある作品で、アルバムの雰囲気を見事に捉えたアートワークも秀逸。

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4. Strawberry Guy – Sun Outside My Window (Melodic)

ウェールズ出身でリヴァプールを拠点とするシンガーソングライターAlex Stephensによるソロ・プロジェクトのデビュー・アルバム。リヴァプールでストロベリーといえばThe Beatlesの’Strawberry Fields Forever’だが、メロトロンが多用された本作の持つ浮遊感のある夢見心地な雰囲気は、どこかこの曲と似た感触があるようにも感じられる。ごく僅かなゲスト・ミュージシャンが参加した他は、作詞、作曲、プロデュース、演奏の全てがAlexによるもの。全編が自宅で録音された文字通りのベッドルーム・ポップでありながら、オーケストラルなアレンジがもたらす優雅さが押し広げるベッドルーム・ポップの新境地。アルバムのアートワークに採用された印象派の画家=モネの「ジヴェルニーの草原」に描かれた陽光に包まれる草花の風景をそのまま音楽で表現したかのごとく徹底した世界観と美意識が貫かれたドリーミー・ポップ。

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3. Japanese Breakfast – Jubilee (Dead Oceans)

オレゴン州ユージーン出身の韓国系アメリカ人、Michelle Zaunerによるプロジェクト、Japanese Breakfast の3rdアルバム。2016年の Psychopomp、2017年の Soft Sounds from Another Planetと、彼女の音楽はポジティヴなバイブスを感じさせる楽曲が多くある一方でどこか苦悩と向き合いながら必死で前を向いているような痛々しさを感じさせるものだったが、本作は何か山を乗り越えたかのようなタイトルの通り祝祭的なムードが全編に渡って漲っている。ホーンとマーチング・ドラムがムードを盛り立てるオープニング・トラックからエモーショナルな轟音のギターに満たされるラスト・トラックまで、ザウナーの過去・現在・未来を捉える視線がかつてないほどに穏やかで力強くなり、表現のスケールが大きくなっていることが伝わってくる。各媒体のベストアルバムにも数多く選出された名実ともに2021年を代表するアルバム。

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2. Drug Store Romeos – The world within our bedrooms (Fiction)

幼なじみのJonny GilbertとCharlie Hendersonが、新しいバンドのベーシストを探すために学校の掲示板に貼った広告を見てボーカルのSarah Downieが加入し結成されたUKのトリオ、Drug Store Romeosのデビュー・アルバム。ゆったりとしたテンポのベースとドラムにギターのアルペジオが絡み、Sarahの可憐なウィスパー・ボーカルが加わるアルバムの導入は、The xxのデビュー・アルバムの’Intro’〜’VCR’の流れに匹敵するほどの完璧さ。バンドのフォーマットに囚われることなくギター、ベース、ドラム、シンセ、プログラミングを巧みに駆使しながらダンサブルな曲からチルドレン・ミュージック風の曲まで、様々なタイプの楽曲を親密な空気で閉じ込められたドリーミーな世界観があまりにも完璧すぎるデビュー・アルバム。The xxの年の離れた妹弟か、Mazzy StarとYoung Marble Giantsの子供か、はたまたThe Velvet Undergroundの孫か…。ベッドルームの中の世界を抜け出してビッグなバンドになっていくポテンシャルを強く感じさせる2021年のベスト・ニューカマー・バンド。

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1. Karima Walker – Waking the Dreaming Body (Keeled Scales/Orindal)

アリゾナ州ツーソンのシンガソングライター、 Karima Walker の2ndアルバム。「呼吸や他のリズムに合わせて、体と自然界を繋ぐようなアレンジを目指していた」とKarima自身が語るように、独特なタイム感と豊かなテクスチャーを持つこのアルバムを聴いていると、壮大な自然の中で意識と無意識のあいだを行き来しながら心と体が解きほぐされていくような感覚になる。ドローン・ミュージックのようなエレクトロニクスの持続音、風の音、アコースティック・ギターやピアノで弾き語られるKarimaの歌。これらがシームレスに続いていくことで、次第に時間的、空間的な感覚が伸縮していき、意識と無意識、夢と現実、無音と音楽、体と自然の境目が徐々に融解していくような心地良さに包まれていく…。レコードの針が中心まで達したことを目で確認して初めて「音楽」が終わったことを確認するが、それでもなお音楽が続いているような不思議な感覚。何度聴いても捉えきれない豊穣さを持つこの作品を聴いている時間が2021年最高の音楽体験だった。

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